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PRIME NEWS 2010年8月19日放送分のレビュー

以下、『PRIME NEWS』2010年8月19日放送分のレビューです。

8月19日放送分では、<なぜ今【ピーター・F・ドラッカー】が注目されるのか? 知の巨人、経営学の神様が残したマネジメント論を学ぶ>と題しての、ドラッカー特集でした。

ゲストは、『もしも野球部の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(以下『もしドラ』)の著者である岩崎夏海氏、ドラッカー学会の会員で立命館大学経営学部教授の三浦一郎氏。またキャスターとして慶応義塾大学総合政策学部教授の上山信一氏という顔ぶれでした。

     

番組ではドラッカー氏における経営、組織、社会的責任とテーマを区切って進んでいくのですが、経営の部分において、ドラッカー氏による「顧客の創造」ということがメインテーマになりました。

そのなかで、『もしドラ』において主人公である南が、自身がマネージャーを務める野球部において考える顧客とは、「部員」・「親」・「先生」・「学校」・「東京都民」・「高野連」・「高校野球ファン」だと紹介されました。そして、彼ら顧客に対して「感動を与えること」が当野球部という組織にとってのミッションだそうです。

また、実際の「顧客の創造」において岩崎氏は、『もしドラ』を、購入者にとって「読むための」本という従来的な商品定義から一歩進めて、「人に薦める」本(=贈答品)として位置づけようとされたとのことです。これは、「人に薦めたくなる」本ではなく「人に薦める」本というのがポイントだと思います。両者においては商品の「価値」が決定的に異なるからです。

     

一方番組においては、顧客の創造は二つの切り口から見ることができる点で進行されていきます。その一つはマーケティング的観点で、リサーチにおいて明らかとなった顧客の顕在欲求としてのニーズを満たすことを指しています。もう一つはイノベーションの観点で、未だ潜在的なものにとどまっている顧客のニーズを読み取り、新たな満足を生み出すことです。

リサーチに関して三浦氏は、一般的に顧客が自ら意識してわかっていることは調べられるが、わかっていないことは調べられないとおっしゃっていました。

これはかなり以前から指摘されているマーケットリサーチの欠点で、たとえば『マーケティングの神話』(1993年)において著者の石井淳蔵氏は、

(消費者は)口に出る言葉以上に、いろいろなことが実はよくわかっている。「洗濯機に何か不満はないですか」と言われれば思いつかないが、「音がうるさいでしょう」と言われればその通りだと思う。

と述べられており、<消費者欲望ないしはニーズは消費者によって自覚されることはあるのか>と疑問を呈されています。

近年おいて急成長した一部の先端的なマーケティングを行っている会社では、実際にマーケットリサーチの位置付けは以前よりも低いものとなっています。

     

つぎに番組における組織運営のパートにおいてですが、ドラッカー氏が人のマネジメントにおいて、「組織の目的は人の強みを生産に結び付け、人の弱みを中和することにある」と述べたことを紹介されました。

大事なことは、ここからマネジメント論へと入っていくことではなく、まずドラッカー氏におけるその(強み/弱み)を判断する基準を考察することではないでしょうか。たとえば岩崎氏は『もしドラ』の高校野球部においてにおいて、「勝つ」ことと同時に「顧客満足」を得る、という新しい基準を提示しました。これは後述するようにドラッカー氏の思想に対して非常に忠実なものとなっています。

       

最後のテーマは、ドラッカー氏の社会的責任論です。引用された氏の言葉は、「現代の組織は、それぞれの分野において社会に貢献するたあめに存在する。それは、社会の中に存在する。地域の中に存在する。隣人として存在する。そして社会の中で活動する」というものでした。

これに対して上山信一氏は「共産党宣言みたい」とおっしゃっていましたが、共産党宣言というよりもこれはアソシエーショニズムだといえると思います。

たとえば言語学者のノーム・チョムスキー氏は、国家の形態を「リベラリズム」、「福祉国家資本主義」、「国家社会主義」、「リバタリアン社会主義」という四つに分類しました。

批評家の柄谷行人氏は、上記チョムスキーの分類に従いつつ、「リバタリアン社会主義」を「アソシエーショニズム」と言い換えました。

資本主義的な社会構成体には、逆にそこから出ようとする運動が生じます。それは、商品交換(リベラリズム)という位相において開かれた自由な個人の上に、互酬的交換(国家社会主義)を回復しようとするものだといってよいでしょう。私はそれをアソシエーションと呼ぶことにします。(『世界共和国へ』)

※文中()は私による表記です。

つまり、市場原理主義的なものの空間のなかで共産主義的なものを回復すること、それを柄谷氏はアソシエーショニズムと言っています。

上記ドラッカー氏による企業の社会的責任論を上山氏が「共産党宣言みたい」とおっしゃったのが間違ってはいるものの言い得て妙なのは、ドラッカー氏は、企業において利潤追求(市場原理主義的なもの)をベースにその社会的貢献(共産主義的なもの)を志向したからです。

先ほどの話ですが、岩崎氏の『もしドラ』における「勝利」と「顧客満足」の関係には、こうしたドラッカー氏のスタンスへの忠実さが表れていると言えるのではないでしょうか。

     

今日においてP.F.ドラッカーをマネジメント論として読むことに新しさはありません。組織体の「強み」と「弱み」を「機会」と「脅威」に照らして分析する手法(いわゆるSWOT分析)はすでにどこの企業でも取り入れられているものです。

重要なことは、こうした方法論としてP.F.ドラッカーを読み直すことにあるのではなく、組織体を「強み」と「弱み」に振り分けるその「基準(=思想)」、方法論としてのマネジメントを生み出し続けるその源泉に遡って思考するべきなのではないかと思います。

     

以上

がっちりマンデー! 8月22日放送分

以下、8月22日放送分の『がっちりマンデー!』のレビューです。

今週の『がっちりマンデー!』では、2010年の最新ヒット商品が紹介されていました。

     

たとえば、小林製薬の「チンしてこんがり焼き魚」

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パックに魚を挟んで、レンジで3分チンするだけでジューシーにこんがり焼けるという商品で、今年大ヒットしているそうです。

番組の紹介としておもしろかったのは、「技術自体は10年前からあって新しいものではない」という点で、以前は「何でも焼ける」という商品プロモーションをかけていたものを、「魚が焼ける」とターゲットを絞ったことで、爆発的なヒットに結びついたとのことでした。

マーケティングにおける、「その商品が使われている具体的なシーン」をどこまで消費者にイメージさせることができるか、という重要なポイントですね。とても参考になる実例でした。

     

また、子供の日常生活に役立つハウツー本として「せいかつの図鑑」が取り上げられていました。

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「お箸の持ち方」から「ぞうきんの絞り方」まで、母親にとって子どもへのしつけは非常に大変な仕事で、ストレスも多い…。そんなニーズに目を付けた小学館の編集者によって制作された本書は、主に母親によって購入されて今では11万部を売り上げているそうです。

森永さんも指摘されていましたが、核家族社会において、家庭の知恵とノウハウをいかにして世代間で継承していくのかというのは重要な問題です。たとえば料理などもそうですね。

     

最後に紹介されたのは、メイドインジャパンで高品質、かつ5145円均一の「鎌倉シャツ」です。どこかで見たことがあるなー、と思っていたのですが、以前『カンブリア宮殿』で取り上げられていました。そのときの番組ログはこちらです。

通常の洋服は原価率を20%に抑えているそうですが、この鎌倉シャツではなんと原価率60%! それでも経営が成り立つわけは、「一切バーゲンセールをしない」ことにあるようです。つまり、「定価で売り切る」ということですね。

     

以上、今週も非常に楽しくかつためになる情報が満載だった『がっちりマンデー!』。次週にも期待♪

マーケティングの神話

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本書における、商品をその性能や価格ではなく、文化的価値を有する「記号」として捉える見方は何も新しいものではありません。
     
本書が優れているのは、そういった記号論的な商品分析・消費行動分析を「企業側」の目線で行なったという点にあります。
そのあたりはさすがに経営学を修められただけあって、文芸出身によって語られる現代思想にはないリアリティがあります。
     
当時主流であった、科学的に、論理的に消費行動にアプローチしようというに対して、ボードリヤールのような危うい思想家を引用しつつも果敢に「現場」的であろうとした著者には深い感銘を覚えずにはいられません。
     
「最新の○○○マーケティング」などと書かれた本を10冊読むよりも、本書を何度も読み返すほうがよっぽどマーケッターとしての資質が磨かれると思います。

ハーバード・ビジネス・レビュー

『ハーバード・ビジネス・レビュー』 - 世界11ヶ国,50万人以上が読んでいるグローバル・マネジメント誌

メディア紹介No.059 - 『ハーバード・ビジネス・レビュー

     

スペック
運営者: 株式会社ダイヤモンド社(日本語版の出版社)
デバイス: Paper
形式: テキスト, イメージ
フィールド: 経営
更新頻度: 月刊(毎月10日)
アクセス: 直送(定期購読), 書店, amazon, Fujisan.co.jp

     

紹介文

『ハーバード・ビジネス・レビュー』は、アメリカの名門ハーバード大学の経営大学院が発行している機関誌で、同院と提携しているダイヤモンド社によって日本版が出版されています。

日本語版においては、単にそのまま和訳しただけということではなく、ゲーム理論, 組織戦略, 経営学など、時代の先端を行くテーマを取り上げ、それに沿って翻訳論文を厳選するという特集スタイルが採用されています。

一冊が定価2,000円前後と雑誌としては非常に高価ですが、その費用を捻出するだけの価値はあると思います。

     

プレビュー

『ハーバード・ビジネス・レビュー』の次月号(2010年10月号)は9月10日発売で、「科学的マーケティング」という特集が組まれる予定です。

主な掲載論文の見出しを挙げると、

・シュミレーション経営

・ニューロ・マーケティング

・マーケティング再考 - 関係構築のための組織改革

・女性マーケットをつかめ - ニーズに応えるために

・ブランド・コミュニティの構築

・対抗ブランド戦略は有効か - 低価格戦略のライバルとの戦い方

・危機対応のマーケティング - スキャンダルへの対応法

・ディスカウンターの成功方程式 - ヨーロッパのチェーン・ストアの秘密

となっています。

なお、現在発売中の9月号は「マッキンゼー賞 経営論の半世紀」という特集が組まれており、過去にマッキンゼー賞を受賞した論文が掲載されています。

以上。

iPadは電子書籍市場でトップシェアを取らない

iPadという商品(デバイス)、またApp Storeというプラットフォームは、電子書籍市場の勃興期において一時的な熱狂で大きくシェアを占めることはあっても、長期的にはトップシェアを取ることはないように思います。

 

2010年7月3日号の『週刊東洋経済』では<メディア覇権戦争>と題された特集が組まれており、そのトップニュースにおいてアップル社製品に対する日米の熱狂ぶりが取り上げられています。

ただし、その記事のタイトルは<アイフォーン熱狂の裏で進むアップル”閉鎖”主義>となっています。記事中では、アドビシステムズの動画再生技術「フラッシュ」のアップル社のよる締めだしを例に、アップル社の閉鎖性を指摘しています。

ただ、よく知られているように、アップル社の閉鎖性は今に限ったことではありません。

日本では都市部の若い女性層を中心にスタイリッシュなエンターテイメントツールとして話題を呼んでいるアップル社製品(iPod, iPhone, iPad)ですが、日本の都市部の若い女性層は、そもそもアップルブランドにとってのメインターゲットではありません。

 

アップルのブランドポジショニングは「反体制」という言葉に集約されるものです。

それは言うまでもなくマイクロソフトとの関係性のことを示唆しているのですが、もう一つのポジショニングの柱である「つねに人が中心にある」という「人道主義」もまた、マイクロソフトとのコントラストにおいてブランドポジショニングの確立を強固なものとしています。

そして、こうした「理念」を共有できる相手こそがアップル社にとってのターゲット顧客層なのであり、その明確な「理念」にもとづいてアップル社の製品は設計されています。

スタジオジブリの宮崎駿氏に<妙な手つきでさすっている仕草>と痛烈に批判されたあのインターフェースも、こうした理念のもとに選択されているのです。

また、有名な『金融日記』というブログで、<iPadはとても残念なプロダクト>というエントリーが2010年6月13日付けで上がっていますが、最近iPadを手に入れたという筆者がiPadの機能性を取り上げて批判的な文章を記しています。(こちらはこちらで『金融日記』のポジショニングを踏まえた上であえてこきおろしているのだと思いますが)

大切なことは、iPadにおいて機能性はけっして優先事項ではない、ということです。

ジャーナリストのナオミ・クライン氏が、アップル社はもはや製品を売っているのではない、と否定的に主張しているように、アップル社が売っているのは一つの「理念」であり、「夢」なのです。さらに言うなら、それを売っているというよりも、むしろ「共有」しているのです。

そうした「理念」や「夢」が、アップル社と消費者との間で共有されていることを象徴しているのがiPhoneであり、iPadであり、iPodなのです。

ですからアップル社が閉鎖的であるのは当然ですし、アップル社の基本的な経営戦略はそのような閉鎖的空間をベースとしていると言えるでしょう。

 

本国より遠く離れた日本という国においては、そういったアップル社の「理念」や「夢」といったものは薄れてソフトバンクのマーケティング色が強く出ていますが、アップル製品とは本来そういうものなのです。

 

アップル製品はけっして市場でトップシェアをとることがないのは、「反体制」をブランド戦略の骨子に抱えているアップルにとって、「体制」と化してしまうことはブランドの死を意味するからです。

上記に挙げた『金融日記』との関係において、「あえて」批判されるような位置関係に立ってしまっていること自体に、アップル社が望んでいるブランドポジショニングとソフトバンクのマーケティング戦略とのずれを見てとることができるでしょう。

ただ、これからアップル社は少しずつその閉鎖性を表面化させ、やがては市場において完全に外部から遮断された独立国家を創り上げることになるだろうと思います。

 

以上。